2017年1月21日土曜日

えんとつ町のプペルにマーケティングを学んだ。

これから、マーケティングの話を書きます。


今までの職歴でいくと、僕は新卒から12年ちょっと、いわゆる
「総合広告代理店」とか、「エージェンシー」と呼ばれるいくつかの会社に
勤めてきました。そして今は、主にクルマ系のデジタル領域を扱う会社に
在籍しており、所属部署名には「マーケティング」という言葉も入っています。

だから何だ、という話ですが、、今まで比較的身近に接してきた「マーケティング」の
概念を覆すような出来事が起こったので、自分の中での整理も込めて
書いてみたくなった次第です。もしご興味があれば、少しお付き合いください。


「キングコング」というお笑いコンビの芸人として有名になり、今は絵本作家としても
活動している西野あきひろさんが、3日前にとんでもないことをやらかしました。
3ヶ月前に発売し、今まで23万部超を売り上げている自身の作品、
『えんとつ町のプペル』 全編を、何とネット上で無料公開したのです。


以下、無料公開に際して西野さんが書いたブログ「お金の奴隷解放宣言。」の抜粋です。


はたして全てのモノが『お金』を介さないといけないのでしょうか?
SNSで誰とでも繋がれるようになり、『国民総お隣さん時代』となりました。
ならば、お金など介さずとも、昔の田舎の集落のように、物々交換や
信用交換で回るモノがあってもおかしくないんじゃないか。
「ありがとう」という《恩》で回る人生があってもいいのではないか。

もしかすると、『本』には、その可能性があるのではないか?


その結果は、すぐに出ました。

以下、翌日更新された西野さんのブログです。


『えんとつ町のプペル』を無料公開したらAmazonランキングが1位になった。


僕は今まで西野さんの作品を読んだことはありませんでしたし、たびたび
メディアで取り上げられている様子を見ている限りだと、いわゆる「炎上狙い」で
アンチの人たちをわざと煽るようなことを書いている印象があり、
ひと言でいうとあまり良い感情を持っていませんでした。


でもこの一連の出来事を通じて、今までの印象が一気に変わりました。

西野さんは間違いなく先見の明を持った
超優秀なマーケッター なんだと。


今回西野さんが採った手法は、マーケティング用語で言うと
「フリーミアム」 という言葉が一番しっくりくると感じました。
まったく新しいやり方、という訳ではなく、実はかなり昔から使われています。

ビジネス書大賞2012の候補にもノミネートされた名著、
『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』 という本があります。

1965年に結成されたアメリカのロックバンド、グレイトフル・デッドは、
録音禁止が当たり前のライブ会場で、観客の録音を奨励するどころか、
なるべく高い音質で録音できるよう、専用の場所を用意していたという
くだりがこの本の中で紹介されています。

このケースでいうと、グレイトフル・デッドはライブに来てくれたファンに「音源」を
無料で提供し、持ち帰って家で聞いてもらうことでエンゲージメントを深め、
再びライブという「体験」にお金を払ってもらう、というサイクルを生み出しています。


今回西野さんは、


「作品の文章と画像という情報」を無料で提供した結果、
「絵本という物質」にお金を払ってもらうことに成功した。


と言えます。


西野さんは最新のブログで、


無料公開することによって、より多くの人に届くし、買わない人も増えるだろうけれど、
買ってくれる人も増えると思ったので。
そして、計上されるのは、買ってくれる人の数だ。クリエイターの生活を支えるのは、
買ってくれる人の数だ。知られないと買われない。

今回、絵本の情報を無料公開したことによって、Amazonや楽天の書籍総合ランキングが
1位になり、本屋さんでもたくさん買っていただいたそうだ。僕は、それが嬉しい。

当初から掲げている『えんとつ町のプペルを100万部売る!』という目標は、今も捨てていない。
ただ、無料で見たい人は、もう、お金なんて要らないからインターネットで無料で見ればいい、
と思っている。

と記しています。

西野さんは「この本を100万部売る」という目標を掲げ、それを達成するためにどうすれば
いいか熟慮した結果、まだ勢いのあるこのタイミングで無料公開に踏み切ったのです。

踏み切れた背景には、西野さんの行動を批判した人に対して宛てた以下文章

情報の無料化の波は、あなたには止められない。
もちろん僕にも、地球上の全クリエイターにも止めることはできない。

この感覚があったからだと思います。

一方でいくら感覚があったからといって、それだけで踏み切れるような簡単な決断では
まったくなかったと思います。特に日本では、漫画『ブラックジャックによろしく』が完結から
かなり経ってから著作権フリーにしたことで話題になった事例はありますが、まだまだ
売れているタイミング(『えんとつ町のプペル』は無料公開前もAmazonの絵本ランキングでは
1位だった)に全編を無料公開した本の存在を他に聞いたことがありません。また西野さん
自身がブログで紹介しているように、「クリエイターにお金が入らなくなる」「作品の価値を
下げる」といった世間の批判とも闘わなければなりません。


自分の皮膚感覚を信じ、批判を受けるのを覚悟の上で
果敢に前例のないチャレンジを行い、結果を出した。

これが、僕が西野さんのことを超優秀なマーケッターだと思った理由です。


僕は「三方良し(売り手よし・買い手よし・世間よし)」という言葉が大好きなのですが、
この西野さんの行動は、結果として

売り手:西野さん(作品がAmazon・楽天全書籍ランキング1位になった)
買い手:お客さん(無料【Web】でも有料【絵本】でも、好きなように作品を楽しむことができる)
世間:すべての「ネットユーザー」(無料で読めた感謝を、「シェア」という形で表現する)
    ※西野さんは自身のFacebookアカウントで、シェアに対する御礼を何度も投稿している。

理想的な三方よしの循環を生み出しています。

この三方良しができた最初のきっかけは、紛れもなく『ヒット作の全編無料公開』です。
西野さんはこの行動を指して自身のブログで「恩で回す」と表現していますが、同義で
恩送り」(英語だとペイフォワード)と言い換えることもできます。


まとめ:「情報無料化」の大波に逆らわず、まず恩を送る。





ここまで長文にお付き合い頂き、ありがとうございます。
今回本ブログの題材にさせてもらった西野あきひろさんの作品、
『えんとつ町のプペル』全編無料公開ページはこちらです。


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